🐟 気仙の水産加工は、いまどこに立っているか
大船渡・気仙沼の水揚げ、国内の生産と輸出、世界の養殖化を同じ線の上に並べ、気仙圏の水産加工業がいま取れる手を、公開資料24件の出典つきで整理しました。
原料としてきた魚が揚がらない年に、別の魚へ切り替えるのか、在庫できる商品へ寄せるのか、販路を変えるのか。気仙圏の水産加工業がいま最も判断しにくいのは、自社の努力以前に、比較できる地域データが一か所にそろっていないことです。本稿では、2026年8月12日までに確認できた公表資料から、大船渡・気仙沼の水揚げ、国内生産と輸出、世界の養殖化を同じ線上に置きます。分からない数字は分からないまま示し、最後に、原料、商品、販路、人手の面で検討できる5つの手へつなげます。
この記事で分かること
- 大船渡・気仙沼の水揚げと魚種の構成が、いまどう動いているか
- 国内生産と輸出、世界の養殖化を同じ線上で見ると何が分かるか
- 原料、商品、販路、人手の面で検討できる手と、外へ出せる仕事
気仙圏のいま
大船渡魚市場の令和7年度統計では、水揚量は1.75万t、水揚金額は50.5億円で、令和6年度より数量34.0%、金額24.7%減りました。令和7年度の主な魚種は、サンマ8,437t、サバ2,326t、イワシ1,344t、ブリ1,090t、カツオ265tです。一方、気仙沼魚市場の2025年統計は4.43万t、160.6億円で、2024年より数量34.3%、金額28.9%減りました。2025年の主な魚種は、マグロ類11,005t、サンマ8,557t、サメ類8,413t、イワシ6,218t、カツオ4,686tです。前年の2024年に33,872tあったカツオの急減が、市場全体の減少に響きました。二つの市場とも、年ごとの量だけでなく、魚種の構成が大きく動いています。
気仙沼は2024年まで生鮮カツオ水揚げ日本一を28年連続で記録しましたが、2025年に連続記録が終わりました。2026年6月26日時点では暫定首位と公表されたものの、年途中の順位であり、連続記録の復活ではありません。
養殖にも海況の影響が出ています。陸前高田市の令和6年度実績では、ホタテは59tで、令和5年度の115tから約49%減りました。岩手沿岸では令和5年度に高水温によるホタテの大量へい死や長期の貝毒規制が報告されています。気仙沼湾でも2026年5月26日にホタテの麻痺性貝毒による自主規制が始まりましたが、2026年8月12日時点の解除状況は公表資料では確認できませんでした。気仙3市町を同じ基準で比べられる直近の水産加工事業所数・出荷額も、公表資料では確認できませんでした。令和6年度の大船渡市の水産食料品製造業出荷額112億円は分かりますが、対応する事業所数は不明です。2021年の陸前高田市13事業所、住田町3事業所は食料品製造業全体で、水産加工だけの数ではありません。
- 大船渡令和7年度 1.75万t
- 気仙沼2025年 4.43万t
- 共通年ごとの量だけでなく、魚種の構成が大きく動いている
国内で起きていること
国内の漁業・養殖業生産量は1984年の1,282万tを頂点に減り、2024年は363万4,800tでした。水産庁は、遠洋漁業の縮小、資源変動、漁業者・漁船の減少、海洋環境の変化を要因に挙げています。魚種別では、2024年のサンマは3.9万tで2014年22.9万tの約17%、スルメイカは2024年2.0万t、サケ・マス類は2024年5.0万tです。サンマは2023年の2.6万tから戻しましたが、長期の水準とは分けて見る必要があります。サケ単独の2020~2024年を同じ定義で並べた公表資料は確認できませんでした。
加工業は小規模な現場が多く、2023年の水産食料品製造業は4,857事業所、従業者13万1,494人で、従業者20人以下が61%を占めます。2026年3月末の特定技能在留者は漁業4,842人、飲食料品製造業9万6,367人ですが、水産加工だけの人数は公表資料では確認できませんでした。
輸出には回復と制約が同居します。2025年の水産物輸出額は4,231億円で、2024年より17.2%増えました。中国は2023年8月24日に日本産水産物の輸入を全面停止し、2025年6月29日に37都道府県産を条件付きで解除しました。ただし中国向けは2022年871億円に対し、2025年67億円です。国内ではHACCP、つまり危害要因を工程ごとに管理する衛生管理が2021年6月1日から原則すべての食品事業者に必要です。しかし国内対応と輸出施設認定は別で、2025年3月末の認定は対米608施設、対EU130施設でした。
需要側では、一人当たり魚介類純食料が2001年度40.2kgから2023年度概算21.4kgへ減りました。一方、2024年の冷凍食品全体は出荷額8,006億円で過去最高でした。水産品だけの伸びではありませんが、調理の手間を減らし、保存しやすくする価値は、原料の量とは別に検討できます。
世界で起きていること

FAOのSOFIA 2026によると、2024年の世界の水産物総生産量は2億3,500万tで、このうち水生動物は1億9,500万tでした。水生動物の養殖は2024年1億300万tで53%、食用向けでは59%を超えます。一人当たり供給量は2024年推計21.3kgです。世界では漁獲量が大きく伸びない一方、供給増を養殖が担っています。
OECD・FAOの2035年見通しでは、食用水生動物の需要は2023~2025年基準から2035年までに12%増え、1億9,400万tとなり、養殖が食用供給の62%を占める予測です。需要増の75%はアジアとされています。
ただし、量が増える市場すべてが日本の加工業に向くわけではありません。白身魚は2025年にタラの供給不足で冷凍品貿易量が15%減る一方、金額は10%増の44億ドルとなり、低価格の代替魚需要が強まりました。缶詰・加工魚は2023年に320万t、175.4億ドルの貿易がありましたが、過去5年間のシェアは安定し、急成長市場とは確認されていません。大規模養殖原料や低価格の量産品では規模の差が出やすい一方、常温保存、調理済み、小分け、産地や加工理由を説明できる商品は、日本の加工業が検討しやすい領域だという見方があります。
いま取れる打ち手
-
魚種転換を小ロットで試します。 大船渡は令和7年度に水揚量が34.0%減り、気仙沼では2025年にカツオが前年から大きく減りました。単一魚種を前提に設備まで一度に変えるのではなく、好調な魚種や養殖原料で規格、歩留まり、売り先を小さく検証します。岩手県内では、宮古のギンザケ養殖「銀鱗サーモン」が初水揚げ約6.5tを首都圏へ出荷したことや、大船渡の陸上養殖「三陸翡翠あわび」がECに掲載されていることが公表されています。いずれも、海で獲れる量だけに依存しない原料の作り方です。
-
商品の時間軸を分けます。 2023年度の一人当たり魚介類純食料は21.4kgまで減る一方、2024年は冷凍食品全体の出荷額が過去最高でした。生鮮一本ではなく、常温、冷凍、チルドを顧客別に分けます。陸前高田のタイム缶詰は缶詰とふるさと納税の返礼品、とれどき三陸は気仙沼産カツオの業務用チルドECを公表しています。
-
未利用部位を別の商品として見直します。 気仙沼では2025年にサメ類8,413tの水揚げがありました。アトリエシャークのサメ革とMakuakeの取り組みは、食用以外の価値と販路を組み合わせた例です。自社で抱え込まず、素材、加工先、販売先の三者で試作単位を決める方法があります。
-
輸出は認定と売り先を分けて考えます。 2025年の水産物輸出額は4,231億円まで戻りましたが、中国向けは2022年871億円から2025年67億円へ減ったままです。2026年8月12日時点で、岩手県の「輸出向けHACCP等対応施設整備事業」は施設、機器、認証費を支援しており、窓口は岩手県農林水産部流通課です。国内HACCP対応だけでは輸出認定にならないため、先に候補国と必要認定を確かめます。
-
ECと発信を一つの検証にします。 2024年の食品・飲料・酒類の消費者向けEC市場は3兆1,163億円でしたが、水産物だけの市場額は公表資料では確認できませんでした。北海道根室の兼由は、2015年のEC開設後、ふるさと納税とSNSを組み合わせた取り組みを公表しています。気仙沼市内では2026年8月12日時点で「製品・サービス開発等支援補助金」を予算上限まで随時受け付け、窓口は産業戦略課です。まず一商品、一顧客層、一つの発信テーマに絞り、問い合わせや再注文を測ります。
中でやらなくていい仕事

2023年の水産食料品製造業は従業者20人以下の事業所が61%です。限られた人が、原料の判断、製造、品質管理、営業、書類作成をすべて持つと、現場でしかできない仕事の時間まで削られます。魚を見て仕入れを決めること、加工条件を調整すること、品質を確認すること、取引先との重要な条件を決めることは中に残します。一方、商品説明文、ECやふるさと納税ページの文章、補助金申請書類の下書き、展示会用資料、業種や市場の調べものは、事実と最終判断の確認点を決めれば外へ出せます。丸ごと任せるのではなく、社内が持つべき数字、写真、製法、言ってはいけないことを渡し、公開前だけ自社で確認する切り分けが現実的です。
石田祐太は、三陸ハピネスとして、こうした地域・業種の調べものと書きものを引き受けています。自社の判断そのものではなく、判断に必要な資料を集め、伝わる文章へ整える仕事です。
この記事で見た資料
この記事は、次の24件の公開資料をたどって書きました。数字はいずれも出典の表記のままで、確認した時点を本文に添えています。
- 大船渡魚市場・令和7年度統計
- 気仙沼魚市場・統計資料
- 東日本放送・気仙沼のカツオ連続日本一終了
- 陸前高田市・近年の水揚高
- 岩手県沿岸広域振興局・養殖生産資料
- 宮城県・高水温によるへい死被害の相談窓口と漁業経営サポート資金
- 大船渡市・水産業振興計画
- 農林水産省・2024年漁業・養殖業生産統計
- 水産庁・水産食料品製造業の構造
- 農林水産省・2025年水産物輸出実績
- 農林水産省・中国の輸入規制
- 厚生労働省・HACCPに沿った衛生管理
- FAO・SOFIA 2026
- OECD・FAO・2035年水産物見通し
- FAO GLOBEFISH・2025年白身魚貿易
- FAO GLOBEFISH・缶詰・加工魚貿易
- 岩手県・農林水産物輸出支援
- 気仙沼市・製品・サービス開発等支援補助金
- とれどき三陸・業務用チルドEC
- タイム缶詰(陸前高田)
- テレビ岩手・宮古のギンザケ「銀鱗サーモン」初水揚げ
- 大船渡の陸上養殖「三陸翡翠あわび」の視察報告
- アトリエシャーク・サメ革の取り組み
- ネットショップ担当者フォーラム・兼由のECとSNS
まとめ
- 大船渡・気仙沼では、年ごとの水揚げ量だけでなく魚種の構成も大きく動いている。
- 国内の生産量が減る一方、世界では供給増を養殖が担っている。
- 原料、商品、販路、人手を分け、小さく検証できる手から考える。